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    2011.12.03 Saturday

    旧・井上房一郎邸

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      1952年,群馬県高崎市,A・レーモンド 井上房一郎,現存(撮影:2011年)


       レーモンドの自邸と言えば、まずRC打ち放しによる「霊南坂の自邸」(1924)が日本最初期の近代主義の住宅として知られるが、戦後に再来日して3年後の1951年に、麻布の笄(こうがい)町に今度は自邸兼仕事場を木造で建てたいきさつがある。これを気に入った井上房一郎はレーモンドから図面の提供を受けるなどして、大部分の造りを受け継いだ建物を自邸として建てたとされる。それが旧・井上邸の由来なのだが、そういうことなので設計者はレーモンドとして良いのか調べたところ、三沢浩氏の著作の作品年譜にはちゃんとレーモンドの作品として記載されていた。

       ところで井上房一郎は言うまでもなく高崎の実業家である一方、山本鼎の勧めでパリに留学、ブルーノ・タウトを高崎に招き工芸作品を委嘱、あるいは群馬交響楽団の設立などをはじめとし、様々な芸術活動とその支援に尽力した人物。要するに庇護者であるだけにずば抜けて芸術に対する造詣が深い。
       そんな井上氏の意思のままに立ち上がった住宅なのだから、これはレーモンドの作品というばかりではなく、見方にも依ろうが井上氏による「写し」としての作品が成立しているようにも感じた。そういう意味においては見え掛かりの落ち着いた風情だけでなく、日本の伝統的な創造形式の延長上則った稀有な近代建築かも知れない。(結局、ここでは作者として両名併記した。)

                   
       
       伝統的な和室を含んだ落ち着いた雰囲気にまず眩惑されるが、建物全体的には近代主義に根差し、構造体などをそのまま露わにし虚飾で包み隠すことを嫌ったレーモンドの信念が表出されている。杉の足場丸太を用いたいわゆる「挟み状トラス」の構造体、ダクトは堂々と天井空間を横切っている。裸電球は障子が濾過する外光と共に室内を照らしている。
       ガラス屋根のパティオはかつて無かった創造的な空間。これはかつて横浜にあった「ライジングサン横浜本社」(1929)の天井を大きく占めたガラス天井の陰りなきモダンな光への想像を誘う。
                    
       感想を言うなら、例えば『陰翳礼讃』的な闇に価値を見出す日本人の和室の感覚と、明るみに露呈するモダニズムの感覚とがきわどい緊張感をもって調和している言ったらよいのだろうか。障子=スクリーン、ふすま=パーティション。日本人の設計者なら避けたくなるようなすれすれのせめぎあいと均衡の妙が具現化されていて、またそれを堪能する自分がいた。
       今日では割と自由に和と洋の様々な融合のさせ方が行われまた抵抗無く受容されるようになったかも知れないが、これが出来た1952年頃を思うとやはり斬新な建築だったのではなかろうか。
           
       その後、2002年には公売にかけられる危機に瀕したが、井上の哲学堂建設への遺志を引き継いだ「高崎哲学堂設立の会」が市民からの寄付金をもとに落札、人々の熱意により建物は救われたということである。今も高崎市美術館に隣接しているたたずまいに接してみれば、瞬時にしてそれだけの価値が十分あることが分かる。
                    







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