旧・名古屋逓信局(日本郵政グループ名古屋ビル)
1938年,愛知県名古屋市中区,逓信省営繕課(中山広吉),現存(撮影:2012年)
名古屋の建築(1)
今や数少なくなった戦前の逓信建築の秀作。耐震補強が痛々しいが目をつぶるしかない。設計担当は中山広吉。中山は1920(大正10)年に逓信省営繕課に入省したので、分離派の山田守(大正9年入省)の1年後輩にあたる。戦前の逓信省では山田守や吉田鉄郎が逓信建築に新風を吹き込んでいた中にあって、中山も独自の建築を目指した。
中山広吉の作風は、どちらかと言えば吉田鉄郎寄りの端整さが特徴かもしれない。1927(昭和2)年の東京中央電話局は様式建築の作法をとどめ、山田の代表作東京中央電信局と隣接しつつも対照的であった。1929(昭和4)年の横浜中央電話局(*1)については、「横浜都市発展記念館」として現存している。
中山の学生時代の卒業設計を見ると、柱型が強調され装飾は最小限に抑えられていて、それは逓信省以後の担当作と似ている。当時の逓信省では外装デザインに柱型を取り入れることが必須であった。柱型は様式建築を簡略化したもので建物外観に最小限の威厳、垂直性を与えるものであったようだ。中山はそこを持ち前のセンスで捉え、上品にまとめたようである。
そして1938(昭和13)年竣工の旧・名古屋逓信局については、向井覚氏が「逓信省の建築家達」という連載記事において、「中山さんのそれまでの集大成であり、薄い軒庇と大きな窓、それに久しぶりで正面ファサードに柱型を出して、垂直の線を強調し・・・」(*2)と書いている。その頃は中山もモダニズムを基本路線とするようになり、同じ頃に建てられた吉田鉄郎の大阪中央郵便局(1939)と近しい造形感覚による。そうした中山の代表作が名古屋逓信局であり、これ以後はデザイナーとしてよりも主に行政官として活躍したそうである。
尚、こうした庇の建築は戦後の郵政局舎において、各階庇の建物としてさらに普及した。
ところで上記の文面にある「久しぶりの柱型の復活」の件についてはちょっとした疑問を感じてしまう。(「久しぶりの柱型」とは、一番上の画像で言えば左側の凹凸のある壁面を指している)ここでは、柱型はかつての様式建築の延長上にある柱型の再現と解釈されているようだが、私が個人的に感じたところでは、そうではなくむしろモダニズムの考え方に倣い、構造体の柱型と梁型を隠さず表わしたものとして見えるのである(しかし、同様かつ最良の参考例であったはずの大阪中央郵便局の建物が既に無く、建物を見比べられないのが残念である)。
*1:元々は森泰治の設計で横浜中央電話局が建設されていたが、完成直前に関東大震災で被災、損傷が大きく建替えを余儀なくされた。そこで中山広吉の設計により建て直されたのが現在の建物である。
*2:『電電建築資料』(1968.10)「逓信省の建築家たち〈1〉」(解説:向井覚)
- コメント
- 名古屋逓信局の登場に地元のものとしてうれしいです。耐震補強されたのはもう10年以上前だと思いますが、なぜか手元にには補強後の写真しかありません。すっきりしたこのデザインは私のお気に入りです。
逓信省の建築としては知られていませんが4年ほど前まで、富山第一銀行名古屋支店というのがあり、それがどうやら昭和13年ごろ建てられた大須郵便局だったような気がします。RC2階建の窓の大きな建物でしたが、戦後といわれればそういう気もしました。支店閉鎖とともに取り壊されてないです。ただ境界杭に逓信省とあったのは記憶しています。 -
- 寺西
- 2013.06.28 Friday 03:44
- コメントありがとうございます。名古屋は昔の建物が比較的残っているようですね。1日だけ見て歩きましたが、とてもとても・・・。他にも逓信省の建物が残っていたのですか。見られず残念です。
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- Kikuchi
- 2013.07.02 Tuesday 21:44
- どの地域でもそうでしょうが、どんどん亡くなっています。戦前の名だたる?RC造なんか、壊滅です。
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- 寺西
- 2013.07.05 Friday 06:53
- 私が名古屋に行ったのは、「デザイン博」コンペ以来であまり詳しくないのですが、恐らく昔は秀作建物がもっとたくさん残っていたのでしょうね。
-
- Kikuchi
- 2013.07.12 Friday 23:32
- 現在取り壊しがはじまりました
-
- 寺西
- 2016.09.19 Monday 23:05
- 寺西さま
お知らせありがとうございます。悲しいですね。 -
- KIKUCHI
- 2016.09.23 Friday 09:42
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