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旧・日本貿易博覧会芸能(演芸)館 (現・神奈川スケートリンク)

1949年(博覧会開催),1951年(スケートリンク開設),神奈川県横浜市,町田建築事務所(博覧会時),非現存(撮影:2014.4)


 まだ記憶に新しいソチ冬季五輪、その男子フィギュアスケートで金メダルを獲得した羽生選手も仮の練習拠点にしたことがあるという、神奈川スケートリンク。尖頭アーチ形の屋根を持つ鉄骨建屋部分については、もともと1949(昭和24)年に開催された日本貿易博覧会神奈川会場(=反町会場)の芸能館(演芸館とも称される)を転用したものであり、さらに建屋の骨組みそのものは土浦にあった戦前の飛行場格納庫を移設したものであった(*1)。
   
 日本貿易博覧会は、占領下の日本が経済的な立て直しを図り戦後復興の足掛りを得るために開催した大規模なイベントであった。博覧会終了後の詳しい経緯としては、まず芸能館は体育館に改造され1949年の国体の会場として活用された。そして1951(昭和26)年には体育館と併存した形でスケート場がオープン、そして1959(昭和34)年には単独のスケート場となったそうである。(*2)

 一見どうということもなく見えるスケートリンクは、戦後復興期の博覧会遺構であり、同時に「もっとも古い歴史を持つ」と言われる現役スケートリンク、あるいは戦争遺構としての側面を持ち合わせている。そして何よりも、まともに建築物の建設がなされ得なかった終戦後の数少ない建築活動の一端を示しているように思われたので、ここに取り上げてみたいと思った。ただ近々建て替えが予定されているらしく、忘れないうちにちょっと急いで訪れた。

 


●元飛行機格納庫のスケートリンク
 現在のスケートリンクの建物は、緩いアーチ形の旧芸能館の建屋に対して、切妻屋根の建屋がTの字形に直交するように連結されてひとつの建物を成している。博覧会開催以後に体育館として使用された際にこうした増築がなされたと考えられる。内部はひとつながりの空間でありスケートリンクが収まっている。

 アーチ形屋根の旧芸能館部分は土浦の旧海軍の飛行機格納庫であったとある。そこでHPを辿ってみるとそこは現在の霞ヶ浦駐屯地にあたり、現在も同様の形状の格納庫が使用されていた(*3)。そしての駐屯地の格納庫内部の屋根の鉄骨骨組みはHPの画像(*4)を見た限りダイヤモンドトラス(*5)のようであった。一方神奈川スケートリンクの内部天井を見てみると、銀色の断熱材でくまなく覆われ鉄骨の天井は見えなかったが、霞ヶ浦と同様にダイヤモンドトラスの可能性はありそうだ。

 

 下の画像のように、切妻屋根建屋の観客席下部の部屋には小規模な鉄骨部材が見られた。またエントランス部分など1950〜60年代的なレトロな雰囲気が濃厚であった。内部のベンチも昭和の雰囲気を醸し出している。

 






●「日本貿易博覧会」について
 1949(昭和24)年3月15日から3か月間、横浜市の野毛山会場(第一会場)と反町の神奈川会場(第二会場)で行われた博覧会。入場者数は360万人とされる(*6)。
 GHQによる貿易に関する占領政策では、終戦直後の外国貿易禁止の時期から、徐々に政府間貿易が行われるようになり、民間貿易も制限付きの形で回復していった。そして1949年から翌年にかけて民間による輸出入が解禁となる時期に合せて、この博覧会が開催されたことになる。
 会場となる敷地は野毛山、反町の2か所でありいずれも終戦後にGHQに接収されていた土地であった。反町については、昭和初期までは遊郭街であり、第二次大戦の空襲で焼き尽くされGHQの接収に至った経緯がある。従って今では昭和初期と思しき街並みの片鱗さえ見当たらない。

   

 博覧会パビリオンのデザインについては、蔵田周忠や丹下健三がそれぞれの記事の中で語っている。だが両者共、芝居の書割の乱立のようで統一性に欠け、お祭り気分風情に堕したことを批判している(*7,*8)。その件に関して、1949年に丹下健三が語った言葉を以下に紹介したい。(後の1970年大阪万博で丹下健三が設計する「お祭り広場」を思い浮かべながら読むと面白いかもしれない)

 「博覧会にゆく省線の中から、規格化された鉄骨とワイヤーとカンバスで大きな空間がつくられている米軍の仮設の施設を見かけた。おそらくあの方法で、自由な空間をつくることもできるだらうし、組み立ても分解も容易であらう。この方が余程わたしたちにふさわしい博覧会の建物であるように思える。これは仮設ではあるがほんものの建築である。」(*7)



 また、丹下健三は外国館において「新時代の生活と技術」というテーマの写真パネル展示を行った。渉外部企画顧問の小池新二から展示と構成の一切を任され、コルビュジエの作品などを織り交ぜた新しい都市生活へのメッセージをデザインしたものであった。元々この企画は、外国からの展示物が集まらない事態への備えを兼ねていたらしく、実際にはパネルのいくつかが展示を割愛されたのであった。もっともこれを見た蔵田周忠は、効果的な意匠に「やっと救われた感じがする」(*8)と褒めていた。


●博覧会の後−反町公園として
 博覧会終了後、野毛山会場では動物園が残され、また公園として改修を経ながら今日に至っている。反町の会場についても、しばらくの間は一部のパビリオンが市庁舎として使われ、新市庁舎が完成して移転した1963年に反町公園となった。ジェットコースターやゴーカート、プールを備えるにぎやかな遊園地の様相を呈していたらしい(今ではそれらは皆撤去された)。

 昭和初期の遊郭から空襲、接収を経て博覧会の開催そして公園へ変貌していった経緯を思う時、昭和史の変遷の縮図のような場所だったように思え、そのような変遷を経ながらも唯一の遺構としてスケートリンクがそのシンボルのように残っていることに感慨を覚えざるを得なかった。また外壁に描かれた子供達の壁画(↓)を見た時、それは過去の墓標ではなく未来に向けて開かれているようにも感じた。

 

 帰り際にちょっと古めかしい水の出ない小さな噴水をみつけた(↓)。いつのもので由来がどういうものなのか全く分からない。ただ後で色々調べているうちに、横浜の水道創設記念噴水にやや似ているように感じた。

      



*1:「各館の大きさ、形状、配置等に付いては手持ち資材(富山県下で購入した木造建築物及茨城県下での飛行機格納庫)・・・(中略)・・・に依って左右された」との記述からも移設された建屋によることが示されている。「日本貿易博覧会建物の建設に就いて」(長倉謙介,『建築雑誌』VOL64.752号)
*2:「神奈川スケートリンクの再整備について」(H.25.4.25,市民局)による。
*3:HP「霞ヶ浦海軍航空隊 格納庫跡」
*4:Yamaro.net@blog「陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地見学」
*5:巴組鉄工所(現・巴コーポレーション)によって1932(昭和7)年に開発された鉄骨立体トラス構造。戦前の施工例では「東京書籍印刷 印刷工場」(DOCOMOMO選定建築)などがある。
*6:博覧会記録誌として『貿易と産業 Japan foreign trade fair Yokohama 1949』(日本貿易博覧会,1950)がある。内容のほとんどは英文で書かれている。
*7:「外国館にある新時代の生活と技術の写真展示」(丹下健三,『新建築』1949.5)
*8:「日本貿易博覧会の建築を見る」(蔵田周忠,『建築雑誌』VOL64.752号)




 
| 1940年− | 14:39 | comments(1) | trackbacks(0) | pookmark |
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コメント
黒澤明の映画「生きる」(1952)を観ていたら、志村喬と小田切みきがスケートに興じる短いシーンがありました。どうも神奈川スケートリンクのようです。
| kikuchi | 2014/06/22 12:23 AM |
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