検見川無線送信所
2008.07.01 Tuesday

1926年,千葉県千葉市,吉田鉄郎(逓信省),現存(撮影:2008年)
吉田鉄郎設計の検見川無線送信所が、DOCOMOMO Japanの選定建物に加わった。もう、ただの廃墟ではないのだ。
DOCOMOMO Japanでは重要なモダニズム建築を「100選」としたが、実は毎年約10件程度追加されてもいる。今回で「135選」になるとのこと。検見川送信所も含む10件の建物が2007年度選定分として5月の総会で会員に承認された後、いくつかの他の承認手続も済んだとのことで、昨日、兼松幹事長から公表の許しを得た。
今回、検見川送信所を推薦したのも実は私である。送信所については現状では廃墟にしか見えないほどの傷みようで、また東京中央郵便局のようにシンプルな矩形格子によるよく知られた吉田鉄郎の作風とも一見異なって見えるためか、選定に至る過程では首をかしげる向きも無くは無かった。(送信所でも東京中郵でも、吉田は合理性を踏まえた上で極限まで無駄をそぎ落とすように突き詰めたデザインを行った点では全く共通していると、私は考えている。)
しかし私は、検見川の場合、吉田鉄郎特有の行き届いたデザインの素晴しさを兼ね備えた上で、さらに他に無い価値として、国際通信を主たる目的とした「無線送信所」という新しいビルディングタイプ(=建物用途)の嚆矢たる建物であること、しかも近代技術に呼応して合理的にデザインされた最も古い現存事例であることを推薦の理由として強調した。別に思い入れだけで主張してきたわけではない。

こうして建物用途や建設地域、設計者などに大きな偏りが生じないよう公正かつ慎重な討議が繰り返された末に、京都会館で行われた総会で検見川送信所も選定建物として紹介されるに至った。実のところDOCOMOMOが選ぶに相応しいもっと保存状態の良い名建築は他にもまだまだある。しかしこの権威ある国際組織が、今回敢えて、DOCOMOMO憲章にもある「重要な建築物の取壊しや美的価値喪失の危機に対して警鐘を鳴らすこと」という精神を重視し、現に保存活動を行っている市民団体が存在することにも言及しつつこの建物を取り上げたことについては、DOCOMOMOとしても意義ある見識の発露であろうし、保存活動に携わる私としても嬉しくまた心強い援護射撃と受け止めた。
(右写真:総会でスクリーンに映写して紹介される検見川送信所)