収蔵庫・壱號館

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平和の塔(旧・八紘之基柱(あめつちのもとはしら))
    
1940年,宮崎県宮崎市,日名子実三,現存(撮影:1964年)

 また親父の撮影した写真に頼ってしまうが、実見したことは間違いない。これは1964年当時、宇部に住んでいた私の家族が九州旅行を企てた際の写真ある。お坊ちゃまじみた服装で写る幼少の私の関心はまさかこの塔にあるはずが無く、近くの「埴輪のお馬さんと遊ぶ」という1点に絞られていたが、これは首尾良く達成された。そういえば、ここを起点とした東京オリンピックの聖火リレーで沸いていたような記憶もある。
またこの写真が撮られた当時は正面に「八紘一宇」の文字は見当たらない。

 この塔は、朝倉文夫門下の気鋭の彫刻家として活動を始めた日名子実三による後期の作にあたる。大正15年に日名子は斉藤素厳と「構造社」を組織して、彫刻芸術をアカデミズムの閉ざされた分野から人々の生活により近い位置へと開放し、建築との融合を図るなどパブリックモニュメントなどとしての彫刻のあり方を模索する運動を興した。彫刻家の側からも近代的な視点の運動が立ち上げられていたことになる。
 こうした考えに至る日名子にとってのきっかけは、関東大震災後の帝都復興創案展に出品した慰霊塔案「死の塔」,「文化炎上」のうち後者がプライズカップを獲得した辺りにあるようだ。実際にこの塔のモチーフは、彼の作風そのままに江東区の寺の無縁仏供養塔に適用されたようなのである。
 さらに日名子は昭和2〜4年に訪欧し、公共芸術のレベルの高さに目覚めたが、恐らくヨーロッパ各地の記念碑なども視察したと思われる。この成果は、構造社が定期的に行った記念碑の試作に表され、例えばスポーツ振興を目的とした「運動時代」というテーマによるモニュメントなどが共同制作されている。抽象的な造形と具象的な彫像群を一体化してメッセージを発することが試みられたようだ。
 紀元2600年の記念事業であった八紘之基柱の造営も、日名子にしてみれば公共性に寄与する記念碑創造の延長線上にあるものとして意欲が傾注された。その壮大さはドイツのライプチヒに建つ諸国民戦争記念碑を思わせる。(これは表現主義彫刻家フランツ・メッツナーの鎮魂への祈りを感じさせる像を伴っており、日名子もその存在は知っていたであろう。)
 また、この塔には石材がもたらす威厳が欠かせない要素であり、世界各地からの寄贈が期待された。当時ベルリンに居た谷口吉郎もドイツの大理石輸送に関わっていたと語られる(『夢と魅惑の全体主義』井上章一)。塔はひとり日名子の意思のみで達成されたわけでもない。
 戦意高揚のみが認められた時代、日名子に限らず芸術家にとってこの唯一の価値観への関与無しには表現が困難な時代であった。しかしイデオロギー的思考に殆んど無頓着なまま、時代の要請にはずば抜けて敏感な作者によって、公共芸術創造の才が遺憾無く発揮された究極の図像がこれなのだろう。これを純粋な抽象的造形として見た時の高揚感も、やはり天才彫刻家の成せる業のように思う。
 但しこれは、戦争の現実を知らない豊かな時代に育った子供が、成人してずっと後に抱いたひとつの感想に過ぎないのだが。
| 1940年− | 20:25 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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