2008.04.28 Monday
旧・千住郵便局電話事務室
1929年,東京都足立区,逓信省(山田守),現存(撮影:2006年)
最近では分離派を象徴する建物といえば、閉鎖されて久しいこの電話局位だろうか。
固く静的な造形の巧さをむしろ嫌い、不定形でつかみどころも無く蠢く生物のようであっても動勢のある造形をあくまで指向した山田守らしさが如実に表されている。曲面に合わせて貼られたタイルには気の遠くなるような手間がかかったのではないかと、見るたび感心する。
いつのまにか周囲が更地となり、昔のように建物のほぼ全貌をカメラに納めることが可能になっていた。だが、山田による水平に長い建築作例は、この他にも岐阜や甲府の局舎などがあるにもかかわらず、面白いことに竣工時頃撮影された写真はどれも水平ラインのパースペクティブを強調したアングルで撮られている。
特に千住局が顕著だと感じるのだが、私は、山田守が影響を受けたE・メンデルゾーンの建築ファンタジーのオマージュ的な意味合いが多分に含まれているのではないか、と思っている。
2008.04.28 Monday
旧・豊多摩監獄正門
1915年,東京都中野区,後藤慶二,正門のみ保存(撮影:2007年)
後藤慶二は、分離派や表現主義傾向のまさに発端となる建築家と位地付けられている。しかし工学技術者としてまた創造を目指すデザイナーとしての両刀の才の部分が、(彼の思索以上に)異常な位持ち上げられ、神話化された面があったのではないかと薄々感じる。
今のところ後藤についてはこの程度しか言えないので止めておく。ただ正門を訪れて見た時の煉瓦の細かい配慮や軒の納まりなどを見ただけでも造形面での凄腕の持ち主であったことは十分わかる。大正4年の建築なのに、昭和初期に風靡したはずのアール・デコチックな窓廻りデザインがあるのはなぜだろう。さらに、旧・小菅刑務所で蒲原重雄が設計した柔らかな光に満ちた雑居房空間は、既に後藤がここ豊多摩監獄で実現していたそうだ。
2008.04.28 Monday
明治大学和泉第二校舎
1961年,東京都杉並区,堀口捨己,現存(撮影:2008年)
スロープがかなりの面積を占める校舎。行って見たら講義が始まる直前だったのだが混雑無く学生が行き来しており、堀口の意図は今も有効に機能している様子だった。
外部空間と建物内部を風景の変化を伴い結ぶスロープの仕掛けも、屋内外が相互に関係し合う日本庭園と建築の発想に由来するのだと思う。階段の縦格子も美しかった。
スロープがかなりの面積を占める校舎。行って見たら講義が始まる直前だったのだが混雑無く学生が行き来しており、堀口の意図は今も有効に機能している様子だった。
外部空間と建物内部を風景の変化を伴い結ぶスロープの仕掛けも、屋内外が相互に関係し合う日本庭園と建築の発想に由来するのだと思う。階段の縦格子も美しかった。
2008.04.28 Monday
ドラード早稲田(和世陀)
1983年,東京都新宿区,梵寿綱,現存(撮影:2005年)
およそ1970年代以降、建築家個人レベルの問題意識の中で建築を捉え直し世に問う姿勢が顕著になった。均質で無機質的な工業製品化に行き着くような近代建築の方向性に対して疑問符を投げかけ、脇へ追いやられていた人間の手仕事や精神性、本来人が備えていたであろう宇宙観のようなものを取り戻そうとする建築家が現れはじめた。梵寿綱の超濃密な仕事も異端視を敢えて楽しむ位の姿勢で続けられている。
身体の延長上にある彼の建築空間は、(写真では奇怪さしか見えないが)ガウディの建築同様、行ってみると意外と包み込まれるような優しいさ、人間との近しさが感じられる。
2008.04.28 Monday
生長の家本部
1954年,東京都渋谷区,岸田日出刀,現存(撮影:2007年)
岸田日出刀は、1922年の卒業以後内田祥三の下で帝大校舎の設計を行いつつ「ラトー会」を作り蒲原重雄と共に帝都復興創案展に出品した。帝大という権威の牙城の中にいて、安田講堂の一部をはじめ表現主義風の要素を取り入れるなど積極的に近代感覚を取り入れる努力を行った。龍岡門脇にある旧・医学部附属病院夜間診療所(現・東京大学広報センター)では円筒形などの単純幾何学の立体を組み合わせた構成主義風の建物もある。その他随想を著し、また丹下健三を見出したといった、ざっとこういった経歴の概略は知られるところだが、彼をして近代建築家とした際の建築観を、作品を通して触れられた話には殆ど接しない。
岸田日出刀 卒業計画《監獄》1922 (「東京帝大卒業計画図集」より)
シンボリックな幾何学形状の扱い(私などからすればどうしてもA・ロッシを思い浮かべてしまう)は彼の1922年の卒計でも戦後1950年代の建築にも見られる。このあたりが私の目下の関心事である。
2008.04.28 Monday
三井住友銀行呉服橋出張所(旧・日本相互銀行本店)
1952年,東京都中央区,前川國男,非現存(撮影:2007年)
一見どこにでもあるビルのようだが、この建築は敗戦後の豊かでもなく技術力も乏しい日本で、近代的なオフィスビルをなんとか手に入れたいとした戦いの記念碑であった。建物は軽量化を意図され鉄骨骨組みは現場で溶接、外壁はパネル化したコンクリート版(PC版)として手仕事を抑えた合理的な建築を狙った。様々な工夫にもかかわらず結果は散々で隙間からの漏水との戦いとなったようだが、この時の技術的蓄積があったからこそ今日のビル建築があると言っても過言ではない。
しかしこの建築を残し伝えたいとする各方面の努力もむなしく、解体されることになってしまった。写真はその直前の姿である。
右は、銀行として現役だった頃の写真(撮影:1982年)。同じく前川國男設計の龍名館ビルのファサードも隣に見える。
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- 収蔵庫・壱號館
- ここは本家サイト《分離派建築博物館》背 後の画像収蔵庫という位置づけです。 上記サイトで扱う1920年代以外の建物、随 時撮り歩いた建築写真をどんどん載せつつ マニアックなアプローチで迫ります。歴史 レポートコピペ用には全く不向き要注意。 あるいは、日々住宅設計に勤しむサラリー マン設計士の雑念の堆積物とも。
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