2008.05.29 Thursday
旧・鶴巻邸
1929年,京都府京都市山科区,本野精吾,現存(撮影:2008年)
折角京都を訪れたからには、とばかりに本野精吾の住宅をとにかく見に行った。
勿論、外観を眺めただけのことだが十分衝撃的だった。正直、こんなに挑戦的なモダニズム建築が日本で実現していたとは・・・という思いである。
煙突までもが鎮式ブロックで組上げられており、これが裏側の立面とは思わせない。見えにくかったがコンクリート打ち放しや曲面なども試みられている。
実際、鎮式ブロックの建築という範囲で見れば、表面に仕上げを施された建築は日本の各地いくつもあるようだ。反対に実際にブロックの目地をそのまま表現した建物もあり、それだけでも冒険であった
と思われるのだが、さらに工業化時代にふさわしい建築生産の合理性を目指す意図を、そのまま正直に建築表現に込めた例となると本野精吾の試みによることになりそうだ。
ここまで純粋な戦前のモダニズム建築の事例は、いくつかの彼の建築をおいて他に残っているだろうか。
2008.05.29 Thursday
関西日仏学館
1936年,京都府京都市左京区,R・メストラレ+木子七郎,現存(撮影:2008年),*国指定登録有形文化財
オーギュスト・ペレの作風を伝える建築が京都にある。ペレの弟子メストラレの原案に従って木子七郎が実施したそうなので、日本で唯一の純正ペレ・スタイル建築と言えるのかもしれない。
様式建築の高い品格と端正さが、鉄筋コンクリートのシンプルな外観にそのまま置き換えられている。外観デザイン要素は、ほぼ細い円柱付け柱と庇に限られた中、正面玄
関の微妙なアールの付いた窓と玄関庇が、最もドラマチックな部分として抑揚が施されている。
ペレの建築に対しては、過去に近い指向を持つ吉田鉄郎も強い関心を示していたが、なるほどその気持ちもよく分かる。
このフランスの感性と京都の幸福な出会いは過去の出来事に留まらない。2003年、コンペを勝ち抜いた赤堀忍によって、外観をそのままに保ちつつ現代の建築として一層魅力を放つ改修がなされた。
2008.05.23 Friday
大阪中央郵便局
1939年,大阪府大阪市北区,逓信省(吉田鉄郎),2012年解体(撮影:2008年)
先日の関西訪問の際、久しぶりかつ真っ先にこの建物を訪れた(決して最後の別れのためとは思っていない)。
まだ学部学生の時分のこと、関西に茶室建築を見に行こうと夜行電車に乗ろうと東京駅をうろついていたら、普段から冷たい表情が怖い某有名建築家でもあるF教授とばったり出喰わしてしまった。ヤバイと思ったが、逆に「何度でも、何度でも、分かるまで見に行きなさい!」と大いに感激していきなり固い握手の手を差しのべてくれた。
そんな昔のF先生の言葉をいい年齢になっても頑なに胸に秘めつつ、今回の関西行きの中ではまず、大阪で危機に瀕すると言われているいくつかの建築を自分なりに取り上げる。
吉田鉄郎はこの大阪中郵のように四角ばった建物で知られているが、実は若い頃を中心に表現派風など様々なデザインを試してはいる。しかし見かけのイメージとは別に、裏に潜む建築作法には一貫したものがある。所与の用途を見極めた上で必要最小限の要素でデザインし、ちょっとした詳細の扱いで建物全体のデザインの質をぐっと高みに引き上げてしまうところだ。こういうことは、なかなか出来ることではない。
建物内部で、柱以外を占める連続突き出し窓のむき出しの機構は、明るく快適な内部空間を創出するためのまさに機械そのもののようだ。モダニズム的な考え方と同時に、全体を構成する柱−梁の架構の表現は、日本の伝統的建築の延長上としても意図されている。モダニズム建築の伝統性との融合を試みた、純粋で完成度の高い戦前の事例であろう。
外観は、やはり東京中央郵便局やその他の建築同様、隣接する建物の陰になろうとなるまいとしっかりデザインされている。(今回は駅の線路沿いの方向からの撮影には失敗したが)
東京,大阪どちらの郵便局も日本のモダニズム建築の最高峰にあると思う。
2008.05.22 Thursday
大阪新歌舞伎座
1958年,大阪府大阪市北区,村野藤吾,現存(撮影:2008年)
さすがは難波、絶叫マシーンそのものをファサードに仕込んだ最近の建物の前に人だかりが出来ていた。
一方、この近くに建つ新歌舞伎座も、50年前の建物ながらやはりこれと似かよった建物前に起こる歓声混じりの人だかりの光景を想定して設計されたのだろう。つまり、全階に廻らされたバルコニーに歌舞伎役者が居並び、見得を切ってはやんやの喝采が湧き上がる。連続してうねる唐破風が賑々しさに花を添える・・・・。
村野は渡辺節の下で、アメリカの商業的な合理主義的建築を中心に研鑽を積んだようだ。単純なカーブに抽象化された唐破風は、どうもそうした時期の装飾の発想を根源に持つのではないか、と私は勝手に想像している。
いずれにしろ、根本的には一般消費者を対象にしつつも同時に建築として高い次元の芸術性をキープするという腕前を考えたとき、村野に勝る建築家がいただろうか。
2008.05.22 Thursday
朝日ビルディング
1931年,大阪府大阪市北区,竹中工務店(石川純一郎),非現存(撮影:2008年)
もし国際様式的モダニズム建築の感覚を最もよく留めた建築を尋ねられたならば、今でも残る大規模な建築の中では、この建物を挙げることになるのだろう。また、デザイン上大切な部分が綺麗に保たれており、知らない人ならこれが戦前の建築とは思いもよらないかもしれない。よって、外見上は建替える必然性など見当たらない。
建築すること自体が地球環境に負荷を与える行為である以上、現有の価値ある資産の活用を検討することには目を塞ぎ、相当なエネルギー消費を伴うと知りつつ建替えありきで開発を進める考え方には、一考を必要とする時代に入ってきたようにも思う。
2008.05.22 Thursday
大阪ビルヂング
1925年,大阪府大阪市北区,渡辺節,非現存(撮影:2008年)
初めてこの建物を見たのだが、いたく感動した。
建物の説明は色々なところに書いてあるので、私の印象を記す。
特にコーニス(頂部の帯状の装飾)の極く小さなロンバルディアバンドで味付けされたロマネスクな雰囲気は、なんとも言葉に表しがたい良さがある。いつまでも見ていたかった。また、平坦かつカーブを持った外壁を、様式性を最小限に感じさせる微小な段差で分節してシンプルでモダンな雰囲気とひとつに統合してしまうという、恐るべき巧さに圧倒された。
もちろん、川沿いの風情に溶け込むような遠くから見た建物の景色にも、またごく近くに寄っても中世へ誘うような彫刻があるなど、デザインの配慮は周到である。
これが壷か茶器であったなら国宝級と崇められたであろうに、建築であったがために・・・・(とは思いたくない)。ともかくこの建物が無い中之島など考えられない。失ってはならない風景がここにあるのだ、といった心境だった。
(既に無い東京日比谷の旧ダイビルについては、分離派建築博物館−『商都東京の町並みを巡る』の一文の真ん中辺に画像を入れてあります。)
2008.05.17 Saturday
国立京都国際会館
1966年,京都府京都市左京区,大谷幸夫 沖種郎,現存(撮影:2008年)
つい先日(5/10-11)、年に一度のDOCOMOMO Japanの総会が京都で開催された。京都にはモダニズム建築だけをとってみても秀作がよく残る。見学会を織り交ぜたスケジュールが組まれたので、一会員の私にとっては普段見られない建築に直に接することも叶うとあって、嬉しくも充実した数日間を過ごすことができた。この日程以外のも含めて、出会った様々な建築画像を追々掲載していきたい。
また総会の新しい企画として、テクノロジーに関する研究発表会がここ京都国際会館で開催された。これまで国際会議などとは全く縁のない私であったが、研究発表を拝聴しつつ初めて大谷幸夫のこの建物をつぶさに見ることができた。
まず、やっぱり建物の巨大さに圧倒され、さらにこれだけの規模でも大味にならず、逆にくどい位濃密なデザインに圧倒された。特徴ある傾斜した構造フレームの連続体は、様々な要素が交錯する内部空間に統一感と変化とを与えることに多分に寄与しているようだ。
ここでは国際会議場という性格から求められる「日本らしさ」を、伝統性を打ち出しながらも表面的な和の模倣を回避しつつ堂々と打ち出している。
今、もしも我々に日本らしさを表現せよという課題が与えられたなら、これだけ堂々と回答できるだろうか。今日でもさらに難しい課題なのかもしれない。こう思いつつ、コンペで敗れた菊竹案の方も並べて建てて見てみたいと、途方も無いことが思い浮かんでしまう。
B・タウトの薫陶を受け日本の家具工芸のモダニズムを開拓した剣持勇の家具デザインも、たっぷり堪能した。確かに彼のヤクルトの容器に似た作品もあった。
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- ここは本家サイト《分離派建築博物館》背 後の画像収蔵庫という位置づけです。 上記サイトで扱う1920年代以外の建物、随 時撮り歩いた建築写真をどんどん載せつつ マニアックなアプローチで迫ります。歴史 レポートコピペ用には全く不向き要注意。 あるいは、日々住宅設計に勤しむサラリー マン設計士の雑念の堆積物とも。
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