ヒアシンスハウス
1937年(構想),2004年(建設),埼玉県さいたま市,立原道造,現存(撮影2008年)
昨年末は担当していた住宅の竣工が何件も重なり、慌しい年の瀬だった。引渡し式が無事済んだその足で、いつもの相棒営業マンとインテリアコーディネーターら仲間を誘い、現場からもほど近い、別所沼公園の池のほとりに建つ、ヒアシンスハウスを見に寄った。私としては、ほっと一息。
その日は戸が閉まっていたものの、木立と水辺の中で約70年前の建築詩の夢想を現実に体験できたことは、ある種贅沢で価値ある時間だった。まるで、終戦後の最小限住宅の源流を見るような建物は、小さいながらも存在感がある。
仕上げに、皆で良さ気な喫茶店に寄りケーキを堪能、上々の仕事納めと相成った。
言うまでもなく、立原道造は昭和初期の詩人であり、同時に東京帝大出身の、建築でも才能を発揮した夭折の天才として知られる。
建築分野では、辰野賞をたて続けに受賞し、岸田日出刀の研究室に在籍、1学年下には丹下健三がいた。1937年に、分離派の建築家石本喜久治の事務所に就職するが病を得て1年ほどで療養生活に入り、1939年に他界する。石本のもとでは石本邸の製図を行い、横須賀の海仁会病院(現・聖ヨゼフ病院)などを担当していた。
そんな短い活動期間中に、ヒアシンスハウス(風信子荘)の構想は、立原自身のための芸術的理想郷として、スケッチが繰り返されていた。
こうした建築のような詩、あるいは詩の如く夢想に近い建築を、実際に建てつつ立原道造の心を継承しようという動きが盛り上がりを見せ、地域振興とも絡んだ形で2004年に実現した。
この運動は、単に事業としてだけではなく、「夢を復原する」という活動そのものが、今日的な意味でのアートたり得るところに魅力を感ずる。また、過去の芸術家が蒔いた種を現代的に発展継承した好例として、私にとっても良い刺激となった。
シンポジウム開催のお知らせ―検見川送信所の利活用を探る
検見川送信所の利活用のあり方を考えるシンポジウムが、2月14日に千葉市美術館11階講堂で開催されます。
「検見川送信所を知る会」では、様々な側面の価値を知る活動を続け、現在、建物を保存すべきとの方向性が確実になりました。
ここで、建築物の価値を十分に伝えつつも生きた建築として後世に伝える論議が必要な段階にさしかかり、今回は、元文化庁の堀勇良氏をはじめ、千葉県建築家協会を中心とした識者を招き、利活用のあり方を探る運びとなりました。
例えば、同地域ではかねてより公民館その他の施設が要望されており、それと建物保存建物との折り合いを図る必要があるなど、乗り越えねばならない課題もあります。しかし、これも多くの人々の知恵の結集があれば、必ずやプラスの方向で解決されましょう。
住民や識者のみならず、自治体の姿勢は特に重要でもあり、文化財指定に対する考え方は、これを測る物差しのひとつとして話題になっている昨今でもあります。
ちょうど、今回のシンポジウム会場の千葉市美術館は、大谷幸夫と千葉市により、保存措置がとられた旧川崎銀行千葉支店を内蔵する鞘堂形式の建物です。同銀行は矢部又吉設計による昭和2年築の建物として、千葉市指定文化財の指定を受けています。
勿論、検見川送信所は、鞘堂式保存とは相容れないでしょうが、利活用と文化財を考えるためには、うってつけの環境と言えましょう。
これまで関心を抱きつつ足を運べなかった方も、今回ばかりは見逃せないかも。
【日時】
2009年2月14日(土) 11:00〜16:30
【プログラム&場所】
千葉市中央区中央3-10-8
11:00〜12:00:見学会(千葉市美術館鞘堂)
13:30〜16:30:シンポジウム(同11階講堂)
【アクセス】
JR:千葉駅下車 東口より徒歩15分
京成電鉄:千葉中央駅下車 東口より徒歩10分
千葉都市モノレール:葭川(よしかわ)公園駅下車 徒歩5分
【参加費】:無料
・総合司会
沖 昌幸(検見川送信所を知る会)
・シンポジウム・パネリスト
堀 勇良(元文化庁)
岡部則之(岡部則之計画工房)
夏目勝也(千葉県建築家協会 保存文化部会)
仲佐秀雄(検見川送信所を知る会 代表)
・コーディネーター
安達文宏(関東甲信越支部(JIA) 保存問題委員会)
・主催&問い合わせ先
検見川送信所を知る会 Tel & Fax:043-276-0444
千葉県立中央図書館
1968年,千葉県千葉市,大高正人,現存(撮影:2008年)
丘を目指して登ると広場が開け、そこを基壇に鎮座する神殿を仰ぐように、エントランスに到達する。
大高正人というメタボリストの設計による未来指向の神殿は、近代技術の勝利を謳うが如く、無限の連続を暗示するPC部材に依って成り立つ。透明ガラスで隔てられた内部に入れば、PC梁が織りなす天上、否、天井からすき間を縫うように、神々しく光が降り注ぐ。
こうした、PC(プレキャスト・コンクリート)という、つまり工場における量産型部材を用いても、ここでは決して均質さの弊害に堕することが無い。
その理由は、モダニズム建築と言えども、過去の歴史や伝統から目をそむけることなく思考が積み重ねられたからであろう。(磯崎氏の手法論を待つまでもなく)歴史の連続性から切り離されることはなく、過去の建築は常に範として求められ、前衛的な建築さえもその研究の上に成り立つ。
例えば、私から見ても、ギリシャのアクロポリスの丘において神殿に向かう過程の空間と重ね合わせが見て取れる、この県立中央図書館のように。
山梨文化会館
1966年,山梨県甲府市,丹下健三,現存(撮影:1981年)
円筒形のコアを分散配置することによって、他のどの建物よりもメタボリズムを成し得た建築と、言われている。当時、丹下健三にとってコア・システムを応用することは、都市と建築を一体化する、無限定に広がる新たな空間システムであり、可能性であり、希望でもあった。構造,設備,人の流れを集約したコアには「コミュニケーションシャフト」との名が付けられたという。
丹下健三によるこの種の他の作品(静岡新聞静岡放送東京支社)も含めて、機能が明確に分節されているにもかかわらず、こうした建物にしては、コアと取替え増設可能な部分とをはっきり色を分けるようなことをせずに、一様の外装としていることに気がつく。おそらく丹下にとってコアの存在感ばかりが際立つのを抑え、人が暮らす部分を等価に扱いたかったという、気持ちの表れではなかろうか。
しかし、思いは仮にそうとしても、限界もあったように感ずる。つまり、私自身、どうしてもあの円筒の中に入って、窓も無く続く螺旋階段を上下しようという気にはなれないのだ。
この点の解決は、ずっと時を置いて建った、伊東豊雄による「せんだいメディアテーク」(2001年)まで待たなければならなかった、と言うべきなのか。
世田谷区民会館・区庁舎
1959年(区民会館)1961年(区庁舎),東京都世田谷区,前川國男,現存(撮影:2008年)
かれこれ20年前、下高井戸のアパート暮らしながらも一応世田谷区民でもあり、「前川さんの建物かな」と思いつつも、殆んどわき目もふらぬまま仕事で何度か区庁舎を訪れもした私は、なぜか、この建築を真面目に見ることもないまま、時が流れてしまった。
その反省の意味も込めて、年が押し詰るのをよそに、去る12月21日のシンポジウムに出席した。
広場にくぐり抜け出れば、有無を言わせぬ打ち放しのすごさに、瞬時に圧倒される。「コンクリートに転写された木の塊り」と言ったら良いのか、荒々しい地肌の存在感は何物にも替え難く、それを生み出す執念を思うだに、死したはずの前川が、突如現れ、軟弱な私に刃を突きつけてくるかのようだ。
これだけ見事な打ち放しコンクリートは、もう、どこを探しても、ここを置いて他には無いのではないか?
京都会館、東京文化会館と同列の、ど迫力を持つ建築が、なんとも身近なところにあったのだなぁ、と今更ながらため息をつく。
ここは、広場がどうあるべきか、という点が発想の根幹を成している。しかし自然でソフィスティケートされた空間に甘え、意識せずにいたならば、ちょっと迂闊だ。
最近、そこかしこで見られるような、付け足しのような広場とは方向性を異にした純粋さが、ここにはある。共同体としての意識の高まりが本気で希求されていた時代に、再度思いを馳せなければならないだろう。また、この「場所」をそのまま生かし続けることは世田谷区民の義務であろう、と感じた。
あけましておめでとうございます。
本年もこの調子で、好き勝手なことを書かせて頂きたく思いますので、よろしくお願い申し上げます。併せて皆様のご多幸、ご活躍を心よりお祈り申し上げます。
- PR
- 収蔵庫・壱號館
- ここは本家サイト《分離派建築博物館》背 後の画像収蔵庫という位置づけです。 上記サイトで扱う1920年代以外の建物、随 時撮り歩いた建築写真をどんどん載せつつ マニアックなアプローチで迫ります。歴史 レポートコピペ用には全く不向き要注意。 あるいは、日々住宅設計に勤しむサラリー マン設計士の雑念の堆積物とも。
- Selected Entries
-
- ヒアシンスハウス (01/25)
- シンポジウム開催のお知らせ―検見川送信所の利活用を探る (01/19)
- 島根県立図書館 (01/12)
- 千葉県立中央図書館 (01/09)
- 山梨文化会館 (01/09)
- 世田谷区民会館・区庁舎 (01/05)
- Categories
- Archives
-
- May 2023 (1)
- March 2023 (2)
- February 2023 (6)
- December 2020 (1)
- September 2020 (1)
- June 2020 (1)
- February 2020 (2)
- January 2020 (1)
- December 2019 (2)
- November 2019 (1)
- October 2019 (3)
- September 2019 (3)
- April 2018 (1)
- February 2018 (1)
- January 2018 (1)
- December 2017 (2)
- April 2017 (1)
- March 2017 (2)
- January 2017 (2)
- December 2016 (2)
- November 2016 (1)
- October 2016 (1)
- September 2016 (1)
- June 2016 (2)
- December 2015 (1)
- November 2015 (2)
- October 2015 (1)
- September 2015 (2)
- July 2015 (1)
- June 2015 (1)
- April 2015 (1)
- March 2015 (2)
- February 2015 (1)
- January 2015 (2)
- December 2014 (3)
- November 2014 (2)
- October 2014 (1)
- September 2014 (2)
- August 2014 (1)
- June 2014 (2)
- May 2014 (3)
- April 2014 (1)
- March 2014 (2)
- February 2014 (1)
- January 2014 (2)
- December 2013 (2)
- November 2013 (2)
- October 2013 (2)
- September 2013 (2)
- August 2013 (2)
- July 2013 (2)
- June 2013 (2)
- May 2013 (2)
- April 2013 (1)
- March 2013 (3)
- February 2013 (3)
- January 2013 (3)
- December 2012 (3)
- November 2012 (3)
- October 2012 (2)
- September 2012 (2)
- August 2012 (2)
- July 2012 (3)
- June 2012 (2)
- May 2012 (1)
- April 2012 (3)
- March 2012 (3)
- February 2012 (3)
- January 2012 (2)
- December 2011 (4)
- November 2011 (3)
- October 2011 (3)
- September 2011 (4)
- August 2011 (4)
- July 2011 (4)
- June 2011 (4)
- May 2011 (3)
- April 2011 (6)
- March 2011 (4)
- February 2011 (4)
- January 2011 (5)
- December 2010 (5)
- November 2010 (5)
- October 2010 (5)
- September 2010 (4)
- August 2010 (4)
- July 2010 (5)
- June 2010 (5)
- May 2010 (4)
- April 2010 (4)
- March 2010 (6)
- February 2010 (6)
- January 2010 (5)
- December 2009 (6)
- November 2009 (3)
- October 2009 (4)
- September 2009 (6)
- August 2009 (8)
- July 2009 (9)
- June 2009 (8)
- May 2009 (7)
- April 2009 (5)
- March 2009 (5)
- February 2009 (7)
- January 2009 (6)
- December 2008 (8)
- November 2008 (8)
- October 2008 (9)
- September 2008 (10)
- August 2008 (18)
- July 2008 (9)
- June 2008 (13)
- May 2008 (21)
- April 2008 (15)
- Recent Comment
-
- 足利学校遺蹟図書館
⇒ 山田正彦 (10/05) - 日比谷映画劇場
⇒ 真@tokyo (04/20) - 西方寺授眼蔵仏教図書館
⇒ 菊地(開設者) (03/24) - 西方寺授眼蔵仏教図書館
⇒ 山田正彦 (03/18) - 『ロダン以後』−建築と彫刻の邂逅(1)
⇒ kikuchi (02/16) - 川崎国際生田緑地ゴルフ場クラブハウス(旧・川崎国際カントリークラブ)
⇒ 蛇口伴蔵 (02/06) - 川崎国際生田緑地ゴルフ場クラブハウス(旧・川崎国際カントリークラブ)
⇒ 生田緑地 (02/06) - 『検見川送信所を知る会』第3回イベント
⇒ 山田正彦 (03/16) - 県営河原町団地
⇒ yamanina (02/06) - 『ロダン以後』−建築と彫刻の邂逅(1)
⇒ 伊豆井秀一 (12/29)
- 足利学校遺蹟図書館
- Recent Trackback
-
- 下関市庁舎
⇒ ALL-A (03/23) - ロート製薬本社
⇒ ひろの東本西走!? (01/25) - 【記録】検見川送信所内部視察記(1)
⇒ drift-city (11/01) - 検見川送信所シンポジウム@さや堂
⇒ モレスキンとめぐる冒険 (02/22) - 『検見川送信所を知る会』第3回イベント
⇒ モレスキンとめぐる冒険 (09/01) - 検見川無線送信所
⇒ モレスキンとめぐる冒険 (07/01)
- 下関市庁舎
- Links
- Profile
- Search this site.
- Mobile