大橋眼科医院
1982年,東京都足立区,現存(撮影:1991年)
レトロな町並みから(2)
撮影したのはずいぶんと以前だが、私は今の今まで奇麗に保存された古い洋館だと思いこんでいた。無知とはこわいもの。
調べたところ、建物を継いだ持ち主自らが長年かけて都内で取壊しの憂き目に合った古い建物のパーツを収集しており、1917年築の先代建物を建て替えるにあたって、多数の古い建築部材をもって洋館のたたずまいを再構成したのがこの建物。完成したのは1982年というから驚きだ。
適応のさせ方はちょっと異なるが、それでも、まるでジョン・ソーン自邸(現・ジョン・ソーン博物館)の日本版かとの思いが強くよぎる。立派なもののようである。
とっくに喪失されたはずの知られた建物の一部とも、ここで出会えるのだろうか。
叢書・近代日本のデザイン 第25巻
建築画像の話題でなくてすみません。ここで新刊書籍の紹介です。
1920(大正9)年,'21(大正10)年,'24(大正13)年に岩波書店から3回刊行された分離派建築会の作品集の復刻本が、ついに刊行されました。
これは、明治から大正のデザインの流れを文献資料の再現で追う、ゆまに書房の画期的なシリーズの大正篇、通しで第25巻が分離派建築会の内容となります。(もちろん分離派以外にも関心をそそられる復刻企画がめじろ押しです。)
日本初の建築運動として1920年に結成された「分離派建築会」のことは、あの有名な宣言「我々は起つ。
過去建築圏より分離し、総ての建築をして真に意義あらしめる新建築圏を創造せんがために。・・・」と共に知られるところです(*1)が、戦後、建築史の俯瞰図の一コマとしての位置が付与され、それ以来、詳細を曖昧としたまま不動気味の観がなんとなく濃厚・・・・・でしょうか。
分離派の旗揚げの目的は、模倣性という病根を絶ち「創造」を目指す意気揚々としたものでしたが、世界的なデザインの大転換期とも時期が重なります。
一例挙げれば、分離派発足とほぼ同時期の地球の裏側では、ル・コルビュジエが自らの『エスプリ・ヌーヴォー』誌を通じて「住宅は住むための機械」と看破するなど、圧倒的な影響力を及ぼしだす矢先でした。
分離派の面々の中にも洋行してドイツの最新の建築動向を視察、紹介する者が現れましたが、模倣性に堕することなき「自己」を追い求める視点と、社会に目を向け普遍化に進路をとるモダニズムとの葛藤は、困難な課題として重くのしかかりました。
しかしながら、明治期以来の様式移入から脱却し芸術としての建築の地位を確保しようとする極めて国内的な文脈と、西欧の近代化の文脈が初めてクロスオーバーした地点の葛藤状況の中においてこそ、ある意味で(西欧の「表現主義」とも異なる)日本固有の自己表現が胚胎していたのかもしれません。
要するに、分離派は、いまだ検討課題多しと思われます。
おっと、書籍の話しに戻ります。本来、現代にもつながる基本的な文献資料は、出来るだけ物理的事情に妨げられること無く、手近に多くの視点から解読されるべきでしょう。しかもできるだけ鮮明な状態のものを。不鮮明なマイクロフィッシュにいらいらした方は結構多いはず。特に分離派の作品集の場合は、有名なことがかえって仇になったのか、図書館では完全本が少ないようです。文献資料にまつわるフラストレーションを解消に導く企画にまずは拍手。
惜しむらくは値が張る点とも見えますが、作品集3刊分の表表紙から裏表紙までがそっくりそのまま1冊にまとめられており、ぎっしりつまった内容の濃さを考えると「お買い得」そのもの。
また、学術向けの企画なので書店の店頭には置かれない書籍とのことですが、これもマニアックな私の色眼鏡で言うなれば「一家に一冊モノ」。もちろん一般に購入すること可です。
そこで、関心のある方はゆまに書房HPにて、ネット購入が近道のようです。こちらに詳細とカタログダウンロードのページもあり。 Amazonならこちら。
どんどん宣伝口調がエスカレートしてますが、最後に白状します。この第25巻の末尾の解説文は、不肖ながらこの私が仰せつかった次第。入魂の思いで執筆いたしました。
に付いたレトロチックパロディなコピー「・・・すべての音楽圏より分離せんがために!!・・・」は、本をただ
せば分離派の宣言です。一応。
旧・森田製薬回効散本舗
1928年,東京都中央区,設計者不詳,非現存(撮影:2006年)
市井の実業家の夢の跡とおぼしき堂々たる構えに出くわした。条件反射的にシャッターを切ったとき、巷の建物が私に訴えかけてきたものは何だったのだろう。
往時の、得意満面のオーナーと、お抱え設計士の自信たっぷりの笑みが目に浮かぶ。
不燃・耐震の象徴鉄筋コンクリートの威容、そしてきらびやかな装飾タイルで威厳と格式とを十分に発揮した様式建築術。これらそもそも西欧伝来という「新味」をしっかり取り入れて、商売の未来を我が物にする―これぞ日本が追い求める「モダン」、と。
ついでに言いたげなのは、当時のお抱え設計士。「最近新興建築家が追いかけ始めたコルビュジエ風の猿真似なんぞは、モダンどころか浮き草的な流行りに過ぎないね・・・・!?」、と。
東京女子大学 旧体育館
5月28以降の状況なのだそうです。
私見ながら、およそ文化の未来を担う、歴史ある学府の為せる業とは思えない光景。
もちろん、学内からも保存を望む声が強くあがっているはずなのに。
あとは芝生の広場になるだけとは、あまりに悲しすぎる・・・
まだ間に合うなら、何とか残して欲しい!
当ブログ内の、東女旧体育館関連記事はここ
京橋の親柱
1922年,東京都中央区,東京市,親柱のみ保存(撮影:2006年)
今日では、地名として残る「京橋」だが、昭和34年までは川に架かる橋があった。親柱は保存されており、交番の屋根のデザインにも取り入れられたなどについては、ご存知の方も多いはず。しかし、この和洋の様式性からはずれた(見方によってはモダンな)親柱のデザインは、一体何に由来しているのだろうか? (一説には、分離派の瀧澤眞弓によるとの言及もあるようだが、具体的な関わりが全く不明である。)
この京橋親柱の意匠性への疑問について、既に土木史の伊東孝氏が著作の中で述べている(*1)ので、以下に簡単に触れてみたい。
伊東氏は京橋の工事の経緯について、東京市技師有元岩鶴が『工学』に1923年に掲載した論文「京橋」を掘り起こすことによって得ている。有元の論文「京橋」によれば、明治期以来の京橋は補強・拡幅による整備が繰り返され、3度目の改修、すなわち大正11(1922)年に工事を終えた橋が、「近代式」デザインの京橋となった。
その際、旧来の擬宝珠付きの和風の高欄は改められ、橋の装飾も一新された。親柱のデザインはずばり「希臘(ギリシャ)式の理想花」としたことが書かれており、伊東氏は検討の上、これをユリの花とみている。確かに私にも、ふくらみ咲かんとするユリの蕾と見れば、そうも見える。
京橋は、関東大震災以前に出来た橋であるが、震災を乗り越えた。(だから復興橋梁ではない。)ユリの花は不死、永遠、再生、復活を意味し、まさに橋の守り神であったと語られている。
ギリシャ神話では、ゼウスの妻ヘラの父が地上に落ちて白いユリになったこと、またヘラの乳には永遠の生命をもたらす力があるとのこと。
恒久性を目指すという都市構造のひとつの本質に対して、神話に基づく「永遠不滅」という意味を花の形象によって象徴化し、デザインにまとめられていく。こうした思考が当時既に行なわれていたとは・・・。私的には脱帽モノだ。
*1:『東京再発見−土木遺産は語る−』(岩波新書 1993)
大阪中央電信局跡の記念碑
大阪市北区堂島3丁目、NTTのビル群のひとつNTTスマートコネクトの片隅にこの碑がある。田蓑橋の北詰めあたりで、GOOGLEにも小さく写っている。
この地には、かつて逓信省山田守の設計による大阪中央電信局が置かれていた。昭和2(1927)年に竣工した建物は、東京中央電信局の大阪版とも呼べるような、放物線アーチが反復する大規模な建物であったのだが、昭和41(1966)年に撤去された。
記念碑は、ありし日の電信局舎を偲ぶものであり、裏面に由来が記されている。
昨年、この碑を撮影した。その時、放物線形状は分かるとしても、中の図柄については謎めいているように感じてあちこち問合せてみたが、今のところ、事情を知る方には巡り合えずにいる。
抽象化された人物と北斗七星、中央下部には「1927−1966 山田守 作」のプレートが取り付けられている。いかにも山田守らしさを滲ませる図柄なのだが、碑が建てられる以前からのものなのだろうか?
そして、ミステリアスなことに、建物が消えた1966年は山田の没年でもある。星座をあしらった図柄は、生前に山田が詠み自らの墓に刻むことを希望した句、「人にあり銀河にもある生死かな」を、思い起こさせずにおかない。
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- 収蔵庫・壱號館
- ここは本家サイト《分離派建築博物館》背 後の画像収蔵庫という位置づけです。 上記サイトで扱う1920年代以外の建物、随 時撮り歩いた建築写真をどんどん載せつつ マニアックなアプローチで迫ります。歴史 レポートコピペ用には全く不向き要注意。 あるいは、日々住宅設計に勤しむサラリー マン設計士の雑念の堆積物とも。
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