2013.11.14 Thursday
旧・門司郵便局電話課庁舎(門司電気通信レトロ館)
1924年,福岡県北九州市門司区,逓信省営繕課(山田守),現存(撮影:1993年)
逓信省営繕課勤務時代の山田守の設計による局舎建築。山田が担当した現存建物としては恐らく最も古い事例であり、つまり分離派として血気盛んなスタートを切った若き山田のエネルギーを、よく伝える建物であるように思う。
竣工当時つまり大正時代末の逓信省営繕課内部では、電話網の拡張事業によって多数の電話局舎の設置が急がれていた。そんな中でデザインの質を確保するために標準化の縛りがかけられていた。例えば外観については、縦長窓に付け柱を配して様式建築としての威厳を必要最小限確保するようなものであった。また防火仕様として「内田式流水防火装置」なる装備が必須とされた。これは火災時に最上階の外壁窓上枠から水が最下階まで流れ落ちるしくみであり、営繕課長内田四郎の特許によるものであった。
結局のところこうした標準化は、何の新味もないデザインを大量生産しようとするものであり、この守旧的な上司の発想は山田守ら若手技師の創造意欲を阻む障害以外の何物でもなかった。若い技師たちはそこからすり抜けるためにあれやこれや策を練ったといわれている。山田守からすれば分離派の信念に従い、まさに過去の様式性を加えただけでお茶を濁すような非創造的な設計姿勢をどうにか打破したいところであった。もっと言えば、様式性を排除したシンプルな外観とした上で、さらに自己のこだわりである曲面による流動的な造形をなんとか実現したいところであった。
さてこの門司の局舎に目を向けると、若き山田が上司に対抗して創造性を発揮しようとした跡が垣間見える。
まず連続した折れ線アーチや人面のような玄関装飾。これらの要素自体は山田以外の技師による局舎でも既に用いられていたもののようである。つまり既成事実となった上司の許可が得られそうなモチーフを選び、それらを山田が狙ったシンプルでモダンなイメージに捉え直して外観デザインに適用したのではないかと思われる。
次に、窓の下枠窓台部分である。このお饅頭のように大きいなパーツには恐れ入った。先述の内田式防火装置を用いる場合に限っては(通常なら下枠部分は水切りの機能を持つべきなのだが、全く正反対に)水が外壁を伝って流れるような滑らかな断面形状になっていなければならないとされていた。つまり曲面形状の下枠で水が伝わり易くなっていなければ上司のOKがもらえない。そこでこのことを逆手にとり、曲面に対して偏愛的なまでのこだわりを持つ山田は、ここぞとばかりに曲面状の滑らかで大きな窓台を設計したのではないだろうか。そんな逓信省の製図室の光景が目に浮かぶ。
その他、裏側を見ると、曲面状にオーバーハングした部分があり(上画像)、戦後の一連の病院や山田自邸などにみられるガラスシリンダー状空間の予兆を既に感じさせる。
つまり、ここ門司にある最初期の山田守の作品には、生涯通して変わらなかった造形指向が既に見られるのである。
2013.11.03 Sunday
旧・門司信用金庫
1930年,福岡県北九州市,設計不詳,非現存(撮影:1993年)
あれからもう20年も経ってしまった。当時存亡が危うかった下関第一別館(現・田中絹代ぶんか館)を居ても立ってもいられない思いで見に行き、そのまま門司に渡って逓信省営繕課山田守設計のNTT門司(現・門司電気通信レトロ館)を見学した。
門司港駅周辺は、当時からレトロ建築の町としての風情を湛える町であった。NTT門司への道すがら、古い建物を目にしつつ、レトロチックというよりはこのちょっと風変わりなアーチのある建物が目に入った。
大体、新しいのだか古い建物なのか判然としない。それで余計気になった。それもそのはず、後で調べたら旧門司信用組合として昭和5(1930)年に建てられ、さらに某氏からの情報によれば戦後の昭和20年代の改修工事の際に、この印象的なアーチ型の玄関庇が取り付けられたということである。それは関門国道トンネル(1958年開通)の開通を祈念したためだそうで、つまりこれは建築要素としてのアーチというよりは、まさにトンネルをかたどったものが付けられたと言った方が正確なのである。
因みに某氏から教えて頂いたところでは、竣工当初の写真を見たらもっと緩いカーブの庇が付いていたのだそうである。
海底を通る関門トンネルが画期的なものとして、当時の期待の高さを物語る証人としての建物ということになろうか。だが建物はタイル貼りから吹付け仕上げの外装へと変わり、名称も「福岡ひびき信用金庫門司港支店」へと変わり業務は移転。2009年に解体され既に無い。
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- ここは本家サイト《分離派建築博物館》背 後の画像収蔵庫という位置づけです。 上記サイトで扱う1920年代以外の建物、随 時撮り歩いた建築写真をどんどん載せつつ マニアックなアプローチで迫ります。歴史 レポートコピペ用には全く不向き要注意。 あるいは、日々住宅設計に勤しむサラリー マン設計士の雑念の堆積物とも。
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