2014.01.26 Sunday
早稲田松竹
1951年,東京都新宿区,設計不詳,現存(撮影:2012年)
早稲田通りのこの映画館で名画に親しんだ思い出を持つ人は、少なくなかろう。調べてみると、「早稲田松竹」は松竹系の封切館として1951年に開館した。1975年には2本立ての名画座に転身し、さらに時を経て2002年には休館を余儀なくされた。しかし早大生を中心とする復活に向けた活動が実を結び再開、今日に至っているとのことである。さらに戦後昭和の薫りを放つ映画館建築としても、今や希少な存在となっている。
建築物として歴史的に特別際立った建物というわけではないけれども、それでも1951(昭和26)年という戦後まだ間もない時期に、これだけのRC造の映画館が実現したこと自体、ちょっと不思議だとも思うし、それなりの評価があってよいのかもしれないとも思う。
半円筒状の連続ヴォールト屋根がポイントになったちょっと洒脱なデザイン、これは戦後の新しい息吹を感じさせるものだったであろう。構造的な意味で円筒シェルの先駆けなのかは分からないけれど、見掛けはそれに近い感じもする。
日本が混乱と窮乏から抜け出せずにいた終戦後の時代にあっても、映画だけはとびきりの名作が次々生み出され娯楽の花形であり続けた。そうした当時の事情があったからこそ建物についても同様に時代を反映し、こうしたちょっとお洒落な映画館が出来上がったということであろうか。そう考えてなんとなく納得してしまいそうである。
因みに1951年といえば、ご存じ黒澤明の「羅生門」(1950)がヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞した年であり、あるいは小津安二郎の「麦秋」が公開された年であった。
そんなことを頭の中で巡らせつつ、建物の写真も撮り終えたし、さっそくシートに身を沈め銀幕の別世界へ向かうとする。
2014.01.10 Friday
千葉大学医学部記念講堂
1964年,千葉県千葉市,槇文彦,現存(撮影:2013年)
皆様、本年もよろしくお願い申し上げます。さすがに以前と比べて更新の頻度は減ってしまいましたが、これからもマイペースで続ける所存です。
さて今年最初は「千葉大学医学部記念講堂」。同大学医学部の設立85周年を記念して1964年に建てられた講堂であり、設計者槇文彦にとっては、名古屋大学豊田講堂(1960年)に次ぐ作品。
千葉市内の高台に「亥鼻の森のお社」を作ることを意図したことによるという、銅版葺きの大きな屋根が印象的である。だがメガストラクチャーの存在を思わせるような、梁断面むきだしの力強い正面ファサードをに目を向けると、私は1960年代当時に思い描かれた「近未来都市の一断面」を見る思いがした。と言うか「内―外」を壁で分かつ普通の単体建築の概念を越えようという意図が明らかに感じられ、ミクロの建築空間からマクロの都市までを統合しようとする意思が強く漂ってくる。(とりあえずガラスを無いものとして見れば、なんとなく意図が汲み取られるかもしれない)
事実、内も外も無い「都市の一部」とする考えは観念上の都市モデルを表わすにとどまらず、設計において大胆に実践されていた。一見したところでは一般的な講堂のプランのようだが、当初は、ホールとホワイエを隔てる仕切りは、建具を全開にすることによって開け放つことができ、一体の空間とすることができたそうである。
ホワイエ中央にRC打ち放しの塔がそそり立ち、その上部には白くて四角い映写室らしきブース(下画像)があるのだが、恐らくそこからステージに向けて映像が発せられていたと思われる。つまり機能の上でもホワイエとホールは一体的に扱われていた、あるいはフレキシブルな変化を可能にする設計がなされていたことを今に伝えている。さらに言えば、ホワイエと屋外を区切るのは透明ガラス1枚だけなので、視覚的には、ホールの隅から外部の亥鼻の森にまでつながっていたのである。
建物随所に流政之のアート作品があちこちに嵌めこまれている。無表情で荒々しい構造体を露わにするだけではなく、実は、壁面と間近な距離においても訪れる者の目を楽しませるよう、きめ細かい配慮がなされていたのである。
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- ここは本家サイト《分離派建築博物館》背 後の画像収蔵庫という位置づけです。 上記サイトで扱う1920年代以外の建物、随 時撮り歩いた建築写真をどんどん載せつつ マニアックなアプローチで迫ります。歴史 レポートコピペ用には全く不向き要注意。 あるいは、日々住宅設計に勤しむサラリー マン設計士の雑念の堆積物とも。
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