2014.12.22 Monday
旧奈良監獄(奈良少年刑務所)
1908年,奈良県奈良市,司法省営繕課(山下啓次郎),現存(撮影:2014年)
奈良県庁の東の交差点からの道をとぼとぼ歩き、坂道を登りつめた辺りに中世の城郭を思わせる煉瓦を主体に石材も用いた表門が立ち現われた。なかなか感動的であった。本物の煉瓦造とはこういうものだったのか、と思わせてくれる。
この表門(ひょうもん)を含め塀の建物も大体そのまま100年以上実用に供されているとのことであり、このように当初の姿を留めるのは、明治期の五大監獄の中でもここだけという。
塀の内部はいわゆる「パノプティコン」という一望監視システムに即しており、建物が放射状に配置されている。J.ベンサムが考案したパノプティコンとは、神でも王でもないシステムが人を管理することを示す近代の権力機構のあり方を示すひとつのモデルとして引き合いに出される。これについてはかつてM.フーコーが論じていた。西欧化を推進した明治期の日本が取り入れた大規模な実例が、ここにあるというわけだ。
***
さて、奈良はさすが色々と興味深い建物がひしめいている。折角なので、奈良県庁の東の交差点からここに歩いて辿り着くまでの道行きで出会った建物を簡単にご紹介しようか。
▼およそ100年前の明治近代の建物について上述したのだが、それよりもはるか昔、日本最初の近代化とも言る奈良時代の建築、築1200年を経て建つ国宝「東大寺 転害門」を見た。天平文化に思いを馳せ眺めていると、時間が経つのを忘れてしまいそうになる。デザインも面白い。
▼そして「北山十八間戸」という、忍性の開設によるハンセン病救済施設を見た、というか初めて知った。鎌倉時代に開設され江戸時代の終わりまで機能したそうで、ここにある建物は江戸時代に旧状そのままに修築されたものだそうである。
もしや遥か光明皇后の施薬院に起源を発するのかなとも思ったが、どうもそれは違うらしい。しかし医療史上の記念碑的な建物が何気なく現存しているあたり、さすが古都奈良である。
▼そのそばにある、煉瓦造の「奈良市水道局計測室」は小さいながらも凝ったデザインであった。ちょっと朽ちかけていたようだがもったいないと感じた。
2014.12.13 Saturday
奈良県庁舎
1965年,奈良県奈良市,片山光生,現存(撮影:2014年)
大きな庁舎ではありながら、隣接する奈良公園の落ち着いた雰囲気を助長するかの如く、鹿の群れもこの打ち放しコンクリートのれっきとしたモダニズム建築になじんでいる。
待てよそうか、本来モダニズムの建築とは自然環境との親和性が高いものだったということか。(そのかわり、過去の様式建築との対比を強調するところから所謂モダニズムの建築は出発したとも言えよう)その好例として、コルビュジエが地中海の風景に溶け込んだバナキュラー建築から影響を受けたことやいくつかの計画を思い出せば、容易に納得できよう。
設計者は片山光生。寺院の伽藍配置を思わせる建物配置が特徴。
リズミカルに柱を配した回廊を透かして、中庭とシンボリックなペントハウスのある建物に視線が誘われる。回廊はピロティとなって建物を浮かび上がらせ、最大限に大地を見せようとしている。窓やバルコニー手摺それに個性的なデザインの庇が水平に広がり、これらによって見事に圧迫感を消し去っている。また屋上庭園は市民に解放されており、奈良公園から若草山まで一望できる。まさに近代建築の原則に忠実に則ってできたと言ってよさそうな建物である。
もちろんこうした中庭や回廊部分は、現在でも生きた空間として利用されている幸せな建物なのであった。
片山光生はこの他にも奈良県文化会館(1968年)、奈良県立美術館(1973年)を同様の方法で手掛けた。
また、昨今ご存じの方も多いと思うが、東京の現・国立霞ヶ丘競技場(1958年)の設計者でもある(下の画像)。水平性を強調した外観で、落ち着いたたたずまいを大都市のど真ん中に創出する手法は、その時既に開花していたようである。
2014.12.07 Sunday
旧JR奈良駅舎(奈良市総合観光案内所)
1934年,奈良県奈良市,大阪鉄道管理局工務課(柴田四郎,増田誠一),曳家の上保存,現存(撮影:2014年)
ここからは、久しぶりに関西の建物(特に奈良と大阪の建物を中心に)取り上げてみようかと思う。今年の夏、用事で関西に数日滞在した折に撮った写真であるが、ちょうど台風の襲来と重なり、その間を縫うようにしながら廻れるだけ廻った。
まずは保存活用叶ったJR奈良駅舎。約20年前にここを訪れた際に撮った写真が家のどこを探しても無いので、再訪しリニューアルした駅舎を撮り直したことになる。
初めて訪れた時には、なぜか待合室に「サモトラケのニケ」像が置かれており不思議だったことを覚えている。それは「奈良シルクロード博」で展示されたものだったそうなのだが、現在は無かった。ご覧のような新しい用途に合わせて雰囲気を変えていた。
建物の外観は洋風を基本に和風の屋根を載せた、いわゆる和洋折衷のRC造建築という、比較的昭和初期にありがちな形式ではあるが、ここでは古都奈良の地域性を考慮するというはっきりした目的を持ってデザインされている。相輪を載せた屋根は破綻なく全体が調和しており、うまくいった建物だということを再度訪れて確認できた。
こうした和洋折衷の建物は、軒廻りと柱頭のデザインに作者のセンスが出やすいように思う。強いて言えば「あっさり味」な方だろうか・・・
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- ここは本家サイト《分離派建築博物館》背 後の画像収蔵庫という位置づけです。 上記サイトで扱う1920年代以外の建物、随 時撮り歩いた建築写真をどんどん載せつつ マニアックなアプローチで迫ります。歴史 レポートコピペ用には全く不向き要注意。 あるいは、日々住宅設計に勤しむサラリー マン設計士の雑念の堆積物とも。
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